故郷を旅立つ
いよいよ、東京へ出発の日。
前日、姉に散々怒鳴り散らされた母は静かだった。
姉も前日の怒りをまだ引きずっているようで、空港までの1時間の車内の空気は最悪だった。
今回の母の東京行きは、あくまでも姉の家のリフォームが済むまでというのが大前提で、(姉自身そう言っていた)12月から春過ぎまでと母には説明していたが、姉と母の関係性、姉の家族の雰囲気を見ていて、同居は無理だろう、このまま東京だろうなとは思っていた。
いよいよ、搭乗時刻。
「くまこ夫婦にあんまり迷惑かけないようにね。」
「はいはい。」
それぐらいの軽い会話で別れた。
飛行機に乗り込んだ。
人生初の飛行機、母が不安にならないようになるべく会話をしていた。
会話が途切れると、母は窓から雲しか見えない外を一生懸命見ていた。
本当は、ずっと生まれ育った場所を出たくはなかったはずだ。
しかも、74になって東京で暮らすことになるとは思いもしなかっただろう。
私も、体力に自信のあった父が脳梗塞で倒れるとは思いもしなかった。
なんとなく、父か母どちらかが一人になったら、地元の老人ホームか姉にお世話になるかなぐらいにしか考えていなかった。
18年振りの母との生活が始まる。
なんとか、この人を幸せにしたいと思った。
そう、思ったのだが…。
現実は、そう甘くはなかった。